「キムチに発毛効果がある」は本当か~研究論文を基に医師が解説

公開日 / 2020.09.14 更新日 / 2024.08.14

キムチに発毛効果がある

「キムチに発毛効果がある」という説を聞いたことがないでしょうか。キムチは辛いので、食べると体がほてります。血行がよくなると髪の毛に栄養と酸素が届くので、この説は信憑性がありそうです。

この説を裏付けるような論文が、2020年1月に発表されました。

今回は、「キムチに発毛効果がある」という研究結果について解説しながら、その要因についても見解を述べていきます。

「キムチの発毛効果」に関する論文の紹介

キムチと発毛に関する論文は、韓国のダンコック大学医学部のDong-Wook Park氏たちが著わした「Do Kimchi and Cheonggukjang Probiotics as a Functional Food Improve Androgenetic Alopecia? A Clinical Pilot Study」です。
翻訳すると「キムチとチョングッチャンはAGAを改善するか~小規模試験の結果」となります。
この論文はアメリカの自然科学サイト「PMC」に投稿され、2020年1月に公開されました(*1)。

*1:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6920077/

研究・実験の概要と結論

Park氏たちの実験は次のように行われました。
キムチとチョングッチャンでつくった特製ドリンク80mlを、AGAを発症している男性と薄毛に悩む女性計46人に1日2回飲んでもらい、1カ月後と4カ月後にその効果を測定しました。
「チョングッチャン」は大豆発酵食品で、日本の納豆のようなものです。
結果は次のとおりです。

<1カ月後の様子>

●効果あり(※):89.1%
●効果なし:10.9%
※効果ありの内訳
・髪の毛が太くなりかつ本数が増えた:63.0%
・髪の毛が太くなった(増えなかったが):21.8%
・髪の毛の本数が増えた(太くならなかったが):4.3%

<4カ月後の様子>

●効果あり(※):93.5%
●効果なし:6.5%
※効果ありの内訳
・髪の毛が太くなりかつ本数が増えた:54.3%
・髪の毛が太くなった(増えなかったが):21.8%
・髪の毛の本数が増えた(太くならなかったが):17.4%

なぜキムチが髪の毛によい効果をもたらしたのか

1カ月後に89.1%の人に効果が出て、4カ月後にはそれが93.5%に増えました。
ただ、「髪の毛が太くなりかつ本数が増えた」は1カ月後の63.0%から4カ月後の54.3%に減っています。その代わり、「髪の毛の本数が増えた」が、1カ月後の4.3%から4カ月後の17.4%へ、4倍になりました。

論文のなかでPark氏たちは、特製ドリンクに含まれる「ポリ-γ-グルタミン酸」が髪の毛によい効果をもたらしたのではないかと推測しています。

ポリ-γ-グルタミン酸が5αリダクターゼを阻害したから髪によい効果が生まれた

キムチもチョングッチャンも発酵食品で、発酵食品に含まれる発酵菌が、ポリ-γ-グルタミン酸をつくります。ポリ-γ-グルタミン酸は、納豆の糸の主成分で「ねばねば」をつくっています。

ポリ-γ-グルタミン酸は、人の体内の「5αリダクターゼ」という酵素の働きを阻害します。
5αリダクターゼは、髪の毛に悪影響を及ぼす物質なので、この働きを阻害するポリ-γ-グルタミン酸を摂取したことで髪の毛が太くなったり増えたりすることは「理にかなっている」といえます。

5αリダクターゼとは

5αリダクターゼと髪の毛の関係について解説します。
男性ホルモンの1つにテストステロンがあります。テストステロンは、睾丸や陰茎の発育や筋肉量の増加、性欲などの「男らしさ」に深く関わっています。
ただ、テストステロンがAGAを引き起こすわけではありません。

テストステロンは5αリダクターゼと結びつくことで、ジヒドロテストステロン(DHT)に変わります。
DHTは髪の毛の細胞である「毛母細胞」を萎縮させる効果があるので、DHTが増えるとAGAが発症しやすくなります。

他の記事にて、5αリダクターゼについて詳しく解説しています。
【AGAの原因】5αリダクターゼを抑制する方法

それでポリ-γ-グルタミン酸が5αリダクターゼの働きを抑えたのであれば、「ポリ-γ-グルタミン酸はAGAを発症しにくくささせる」ということができるわけです。

論文に関する医師の考察

AGA治療の医師は、論文の内容について「信憑性はありそう」という見解を示しています。ただ「信憑性がある」と断定しているわけではありません。
なぜ断定に至らなかったのか、解説します。

ポリ-γ-グルタミン酸の効果は期待できそう

医師は、キムチとチョングッチャンの発酵菌がつくり出したポリ-γ-グルタミン酸が5αリダクターゼの働きを抑制して、その結果、DHTが増えなくなり、髪の毛が太くなったり本数が増えたりすることは、十分期待できると話しています。

さらに医師は、キムチには、別の「髪の毛にとってよい成分」があるとしてきます。
それは「IGF-1」といいます。

辛いものとIGF-1

医師によると、キムチの辛味成分であるカプサイシンは、胃のなかで「IGF-1」という成長に関わるホルモンをつくります。
IGF-1は成長に関わるので、髪の毛の成長にもよい効果が期待できます。
またIGF-1は、炎症を抑える作用があります。頭皮の炎症が抜け毛を促すことから、IGF-1の抗炎症作用は、髪の毛によい効果をもたらします。
さらにIGF-1は血行をよくします。AGAの原因の1つに血行不良があるので、IGF-1の血行改善効果も髪の毛にはプラスになります。

論文の内容で懸念される点

さて、キムチには「ポリ-γ-グルタミン酸効果」だけでなく「IGF-1効果」も期待できることがわかりました。
それでもなぜ「キムチ発毛説」は「信憑性がありそう」の域を出ないのでしょうか。

医師が懸念するのは、論文で示された実験の方法です。
この実験には、本来実施しなければならない次の4項目が行われていません。

●頭皮の血流を測定していない
●プラセボ効果を確認していない
●被験者が少ない
●観察期間が短い

髪の毛への効果を検証する以上、頭皮の血流の測定は欠かせませんが、この実験では行われていません。
プラセボとは「偽薬」のことです。普通、薬やサプリなどの効果を証明するには、被験者を2つのグループにわけ、一方に本物を与え、他方にプラセボを与えて、効果に違いが出るかどうか試さなければなりません。これも行なっていません。
そして今回の実験の被験者46人は、「信憑性あり」と断言するには少なすぎます。
されに食べ物(キムチとチョングッチャン)の効果を測定する期間としては「1カ月」または「4カ月」は短すぎるでしょう。

まとめ

キムチ発毛説は「信憑性はありそう」というレベルにとどまっていますが、これは決して低い評価とはいえません。
キムチに、髪の毛にとってよい成分が2つも存在することがわかったことは、AGA治療を考えるうえで収穫といえます。
今回、論文の精査を依頼したAGA治療の医師は「AGAの患者さんに『何を食べたらよいのか』と聞かれたら、キムチを提案してみます」とコメントしています。

この記事の監修者
宮内 俊
ウィルAGAクリニック

多数のAGA患者の治療実績から生まれた独自の発毛理論をもとに、表参道ウィルAGAクリニック開院。 2018年5月ウィルAGAクリニックに改名し、全国に展開。千葉大学医学部卒。

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多数のAGA患者の治療実績から生まれた独自の発毛理論をもとに、表参道ウィルAGAクリニック開院。 2018年5月ウィルAGAクリニックに改名し、全国に展開。千葉大学医学部卒。

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