女性の薄毛は「FAGA」といいAGAとは別の病気です【症状、原因、治療法】
薄毛のことを「AGA」(Androgenetic Alopecia、男性型脱毛症)と呼ぶことは、すっかり定着した感があります。
それに伴って女性の薄毛現象のことを「女性のAGA」と呼ぶことがありますが、それは厳密には正確な表現ではありません。
女性の薄毛の正式名称は「Female Androgenetic Alopecia」(FAGA、女性男性型脱毛症)といいます。この名称なら、女性の薄毛を「女性のAGA」と呼んでもよさそうですが、しかしFAGA(女性の病気)はAGA(男性の病気)とは別の病気と考えられています。
また、FAGAの治療は、多くの点でAGAの治療と異なります。そのため、FAGAは「FAGAとして」覚えておくことをおすすめします。
この記事では、FAGAの症状、原因、治療法などを紹介します。
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目次
FAGAとAGAはどれくらい違うのか
FAGAの特徴を解説する前に、イントロダクションとして、FAGAとAGAが「これほど違う」ことがわかるエピソードを紹介します。
フィナステリドの効能効果を読んでみると
最も有名なAGA治療薬の1つにフィナステリド(一般名)があります。製品名はプロペシアといいます。薄毛に悩む男性がAGA治療専門のクリニックに行き、AGAと診断されると、かなりの高い確率でフィナステリドが処方されるでしょう。
フィナステリドは、それくらい効果が期待できる薬です。
ところがフィナステリドの「効能効果」には「男性における男性型脱毛症の進行遅延」と書かれてあります(*1)。男性専用であることを強調しています。
さらに「効用効果に関連する使用上の注意」には次のように書かれてあります。
●女性に対する適応はない。海外のフィナステリド製剤で実施した閉経後女性の男性型脱毛症を対象とした12カ月間のプラセボ対照二重盲検比較試験(n=137)において、フィナステリドの有効性は認められなかった。
フィナステリドの製薬メーカーは、男性専用であると断っているだけでなく、さらに「女性に適していない」と注意喚起しています。
それだけでは足りず、海外で行なわれたフィナステリドの試験結果も示しています。
プラセボとは「偽薬」のことで、害も効果もない物質でできています。新薬の開発では最終段階の試験で、実際の患者さんに正式の新薬とプラセボ薬の両方を投与して、正式の新薬に目だった効果が出るかどうか測定します。
このような試験を行うのは、プラセボ薬を「正式の新薬です」といって投与すると、症状が改善してしまう患者さんがいるからです。
したがって新薬は、プラセボ薬より明らかによい効果が出た場合にのみ発売できるようになります。
そしてFAGAの女性患者さんに対して、フィナステリドとプラセボ薬を比べたところ、フィナステリドに明らかなよい効果が出ませんでした。
*1:https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066547#:~:text=%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AA%E3%83%89%E3%81%AF5%CE%B1%2D%E9%82%84%E5%85%83%E9%85%B5%E7%B4%A0,%E3%82%92%E7%A4%BA%E3%81%99%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%EF%BC%8E
メリットなし、副作用のリスクだけを負う
製薬メーカーがここまで、「フィナステリドは男性用である」ことを強調するのは、この薬をFAGAを発症した女性に使ってもらいたくないからです。
フィナステリドには、肝臓への障害やかゆみ、発疹、抑うつ症状といった副作用があります(*1)。もちろんこれらの副作用は必ず出るわけではないので、AGAの男性患者さんが使えば、フィナステリドを服用するメリットが得られる可能性は高くなります。
しかし、フィナステリドはFAGAの女性患者さんには効果がないので、もし女性がフィナステリドを飲んでしまったら、メリットが期待できないのに、副作用のリスクだけを負うことになります。
見た目は同じだがホルモンがまったく違う
女性の毛髪も男性の毛髪も、見た目はほとんど同じです。抜け落ちた髪を見て、女性のものか男性のものか当てることは難しいでしょう。
しかし、女性の毛髪のメカニズムと男性のそれは、異なる点が多いのです。それは女性と男性では、ホルモンの種類や量が異なるからです。ホルモンは髪の毛に大きな影響を及ぼしているので、ホルモンの種類と量の違いは毛髪のメカニズムに大きな違いを生みます。
女性と男性では、ホルモンと毛髪の関係性が大きく異なるので、治療法も異なるわけです。
FAGAの症状
FAGAという名称では、どうしても「AGAの女性版」というイメージが強くなってしまうので、最近では女性の薄毛をFPHL(Female Pattern Hair Loss)と呼ぶこともあります。
ただこの記事では、一般的に定着しているFAGAを使っていきます。
女性のFAGAの症状の特徴は、頭髪の全体が薄くなることです。男性のAGAは、額の生え際や頭頂部から薄くなり始めるので、それとはかなり異なる症状といえます。
さらにFAGAでは、頭髪を長年同じところで分けている場合、その分け目から毛髪が抜けていくことがあります。
FAGAの好発年齢(発症しやすい年齢)は40~50代とされ、まれに20~30代から発症することもあります。
FAGAの原因
FAGAの原因は医学的に特定されているわけではありませんが、多くの専門家はホルモンバランスが崩れることが一因になっていると指摘しています(*2)。
ホルモンバランス説は、FAGAが40~50代から発症することからも説明できます。
女性は40代後半から卵巣から分泌される女性ホルモンが減り、その後、閉経を迎えるとさらにホルモン量が変化します。
FAGAは、女性の更年期症状の1つと考えられています(*3)。更年期症状は、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの減少によって引き起こされ、具体的な症状には、のぼせや多汗などのホットフラッシュや、倦怠感、心の不調、白髪の進行などがあります。
それらの症状と一緒にFAGAが起きることが多いので、更年期症状の1つに数えられます。
また、エストロゲンが減ると、FAGAを発症しないまでも、毛髪にハリやコシが失われることがあります。
女性の毛髪には、女性ホルモンが重要であることは間違いないようです。
*2:https://kami-katsu.bayer.co.jp/cause/female-hair-loss/faga/
*3:https://kami-katsu.bayer.co.jp/cause/female-hair-loss/hormonal/
FAGAの治療法
日本皮膚科学会は「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」において、FAGA治療におけるミノキシジルの使用を「推奨度A(行うよう強くすすめる)」に認定しています(*4)。
1,242人のFAGA患者さんを、ミノキシジルを投与するグループとプラセボ薬を与えるグループにわけて試験したところ、明らかにミノキシジル投与グループの脱毛部分の毛髪が増えました。
ミノキシジルには女性用と男性用がある
日本で最も有名な、ミノキシジルを配合した発毛剤・育毛剤は、大正製薬のリアップでしょう。リアップは第1類医薬品なので、医師の処方箋がなくても購入することができます。ただ、薬剤師のいる薬局で買う必要があります。
もしFAGAに悩んでいる女性がミノキシジルを使ってみたいと思ったら、「リアップリジェンヌ」という女性専用のリアップを購入してください。リアップには男性用の「リアップ」や「リアップX5プラスネオ」などがありますが、これらは「女性には適さない」と明確に紹介されています(*5、6、7)。
このように、同じくミノキシジルを使う場合でも、製薬メーカー(ここでは大正製薬)は、男性用製品と女性用製品をわけて開発・製造しています。
*4:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
*5:https://brand.taisho.co.jp/riup/riup/
*6:https://brand.taisho.co.jp/regenne/riupregenne/
*7:https://brand.taisho.co.jp/riup/qanda/
*4:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf
*5:https://brand.taisho.co.jp/riup/riup/
*6:https://brand.taisho.co.jp/regenne/riupregenne/
*7:https://brand.taisho.co.jp/riup/qanda/
まとめ~女性は女性専用の治療を受けて
FAGAを「AGAの女性版」と考えてしまうことは無理からぬことで、実は医療界でも当初は、女性の薄毛も男性の薄毛も同じ病気であると考えられていました。
しかし、よくよく考えてみれば、薄毛の男性の数に比べて薄毛の女性の数が少ないことは明らかです。そうであるならば、医療の素人でも、FAGAとAGAが違う病気であることは推測できます。
そして実際に、FAGAとAGAは異なる病気であることがわかりました。
女性は女性専用の治療を受けるようにしてください。