「多毛」の副作用で、発毛剤をつくることはできるのか

公開日 / 2020.09.09 更新日 / 2024.08.14

「多毛」の副作用がある薬で発毛剤をつくることはできるのか

薬の副作用は「悪いもの」と考えられています。ある薬を使ってある病気を治しても、別の健康被害を引き起こすからです。
しかし、副作用が期せずして「よい」効果を引き起こすこともあります。

心臓や肝臓などの臓器を移植した患者さんに投与する免疫抑制剤「シクロスポリンA」の副作用に「多毛」があります。
それで、このシクロスポリンAを使って、発毛剤をつくることができないかと考えた研究者がいます。
副作用を積極的に使おうという考え方は、一般的には荒唐無稽な印象がありますが、果たして上手くいくのでしょうか。

免疫抑制剤シクロスポリンAで発毛剤はつくれるのか

シクロスポリンAを使った発毛剤の研究は、イギリス・マンチェスター大学皮膚科学研究のNathan J. Hawkshaw氏らが、2003年に発表しました。
論文のタイトルは次のとおりです(*1)。
「Identifying novel strategies for treating human hair loss disorders: Cyclosporine A suppresses the Wnt inhibitor, SFRP1, in the dermal papilla of human scalp hair follicles」

論文タイトルを翻訳すると「脱毛障害を治療するための新しい戦略~シクロスポリンAは頭髪のSFRP1の活性を抑制する」となります。
この翻訳文をさらに噛み砕いて説明すると、このようになります。

●シクロスポリンAは頭髪に関与するSFRP1という物質の活性を抑制するので、薄毛の治療につかえるのではないか

論文をさらに読み込んでいきましょう。

*1:https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.2003705

薄毛の原因となるタンパク質を不活化する

Hawkshaw氏は、シクロスポリンAの副作用である多毛症に着目し、新しい「発毛促進分子」を特定することに成功しました。
その発毛促進分子とは、タンパク質の一種「SFRP1」で、毛髪の毛包に悪影響を与えていることがわかりました。毛包とは、毛髪を取り囲む組織層のことで、ここから毛が成長していきます。

そして、シクロスポリンAはSFRP1の活性を阻害する効果があることがわかりました。
つまりシクロスポリンAがSFRP1を不活化するので、毛髪への悪影響が減り、多毛が起きるというわけです。

以上の流れを簡略化するとこのようになります。

●タンパク質「SFRP1」は毛包に悪影響を与え、これが薄毛の原因になる

●シクロスポリンAはSFRP1を不活化する

●毛包への悪影響がなくなるか減るので、薄毛の原因がなくなり多毛になる

では、シクロスポリンAは発毛剤に応用できるのでしょうか。

別の副作用が強すぎて発毛剤には使えない

Hawkshaw氏は、シクロスポリンAは「発毛を強力に誘導する」ものの「有毒なプロファイルのため」発毛剤には使えない、と結論づけています(*2)。

*2
Cyclosporine A, a fungal metabolite commonly used as an immunosuppressant, can potently induce hair growth in humans. However, it cannot be effectively used to restore hair growth because of its toxic profile.

シクロスポリンAなどの免疫製剤は、いわゆる「とても強い薬」です。シクロスポリンAを製造している富士フイルム和光純薬株式会社は、この薬は「飲み込むと有害」「発がんのおそれあり」「生殖能又は胎児への悪影響のおそれあり」としています(*3)。

したがって、シクロスポリンAは、心臓移植や肝臓移植といった命に深く関わる治療のときにだけ、医師の厳重な管理の下で使う薬であって、発毛のために使うべきではない、ということになります。

*3:https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-2493JGHEJP.pdf

骨粗しょう症の薬なら発毛剤に使えるのではないか

Hawkshaw氏は別の研究で、骨粗しょう症の薬に使われている化合物「WAY316606」という物質なら、発毛剤に使えるのではないか、と提唱しています(*4)。

Hawkshaw氏は、植毛手術を行った患者さんから採取した毛包にWAY316606を投与しました。2日目には毛幹の伸びがあり、シクロスポリンよりも効果的ではないか、と考えられています。WAY316606も、シクロスポリンAと同じようにSFRP1を不活化します。
WAY316606についてHawkshaw氏は、副作用が小さく育毛を促進する可能性があるとしています。

*4:https://forbesjapan.com/articles/detail/32464

新しい発毛剤はいつできるのか

WAY316606には期待が持てる、との見解が示されたわけですが、それではこれを使った、まったく新しい発毛剤は完成するのでしょうか。
残念ながら、Hawkshaw氏のWAY316606と発毛剤に関する研究の続きは、まだ発表されていません(2020年8月現在)。

ただ、イタリアの製薬会社GiulianiがWAY-316606の類似の化合物で発毛剤を開発している、という情報があります(*5)。
この情報は2019年9月のものなので、そこから研究が進んでいるかもしれません。

*5:https://www.folliclethought.com/way-316606-clinical-trial-update-2019/

まとめ

Hawkshaw氏が発毛剤の研究に意欲的なのは、次のような思いがあるからです(*1)。

Hair growth disorders often carry a major psychological burden. Therefore, more effective human hair growth–modulatory agents urgently need to be developed.
発毛障害は、しばしば大きな心理的な負担を伴います。そのため、髪の毛を成長させる薬を開発することは喫緊の課題といえます。

AGA(男性型脱毛症、薄毛)は、生き死にには関係しない病気です。しかし薄毛の人は深く悩み、心理的ストレスを抱えることから、AGAはQOL(生活の質)を著しく低下させます。
そして医学の力があれば、AGAを改善させることができます。すでにAGA治療で使われているフィナステリドやミノキシジルといった、髪の毛によい効果をもたらす物質も、医学の力で発見されました。
Hawkshaw氏たちの研究が進み、より効果があり、より副作用が小さい薬が誕生することを期待したいです。

この記事の監修者
宮内 俊
ウィルAGAクリニック

多数のAGA患者の治療実績から生まれた独自の発毛理論をもとに、表参道ウィルAGAクリニック開院。 2018年5月ウィルAGAクリニックに改名し、全国に展開。千葉大学医学部卒。

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多数のAGA患者の治療実績から生まれた独自の発毛理論をもとに、表参道ウィルAGAクリニック開院。 2018年5月ウィルAGAクリニックに改名し、全国に展開。千葉大学医学部卒。

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