再生医療は「毛髪」治療にも使われている
再生医療とは、壊れてしまった臓器や器官や組織を元に戻したり、新たにつくり出したりする医療行為です。
その再生医療が、AGA(男性型脱毛症)治療の領域にも進出してきました。
詳しくみていきましょう。
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Dr.シュンの発毛チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=WM3-m8R2MYc
目次
そもそも再生医療とは
「髪の毛の再生医療」を解説する前に「そもそも再生医療とは」どのような医療なのかについてみていきます。再生医療の基礎知識を持っていると、髪の毛の再生医療の仕組みがよく理解できます。
壊れた臓器を再生する医療
再生医療は、壊れてしまって回復の見込みがない臓器や器官や組織を治療するときに使われます。
例えば、肝臓という臓器は、少しくらい悪化しても、治療をしたり生活習慣を改善したりすれば回復することがあります。ところが、悪化が一定程度以上激しくなると、肝臓はもう回復しません。そのような状態の患者さんにとって、再生医療は希望の光となります。
ではなぜ再生医療は、臓器・器官・組織をつくりだすという夢のような出来事を生み出すのでしょうか。悪化して回復の見込みのない臓器は、どのように再生されるのでしょうか。
幹細胞とはどの臓器にもなり得る細胞
再生医療を可能にするのは、幹細胞です。
人は、わずか1個の受精卵から誕生します。1つの受精卵が細胞分裂を繰り返し、人の形になります。つまり、受精卵は「すべての臓器や器官や組織になり得る」といえます。そうであるならば、「受精卵のような細胞」をつくり、コントロールすれば、壊れた臓器を再生できるはずです。
受精卵のように、どの臓器・器官・組織にもなり得る細胞のことを、幹細胞と呼びます。
これが再生医療の考え方です。
再生医療産業は35兆円になるかも
再生医療や幹細胞の技術は、まだ道半ばといった状態です。心臓や肝臓や腎臓といった、大きくて複雑な構造を持つ臓器を再生できる技術は生み出されていません。
しかし、再生医療の研究は急拡大していて、その市場規模は2026年には世界で35兆円に達するだろうと推測する専門家もいます。
再生医療は、まだまだこれから進化していく医療です。
この巨大な再生医療分野のなかに、毛髪に関する研究や開発が含まれるのは当然のことといえるでしょう。
「毛髪を再生する医療」とは
再生医療の基礎知識を確認できたところで「毛髪の再生医療」について解説します。
毛髪をどのように再生するのでしょうか。
毛髪も細胞だから再生できる
毛髪も、当然ながら細胞でできています。再生医療は細胞を使って臓器・器官・組織を再生するので、細胞でできている毛髪も、理論上は再生できます。
毛髪が長くなったり太くなったりするのは、細胞が増えているからです。ところが毛髪は、一定期間を過ぎると長くなることも太くなることもやめます。それは細胞分裂が止まったからです。これは毛髪の正常な動きです。
細胞分裂が止まってしばらくすると、その毛髪は抜け落ちますが、これも正常な営みです。それは、抜けたあとの毛穴にはすでに新しい毛髪が細胞分裂をして成長しているからです。
このヘアサイクルが順調であれば、脱毛しても新しい毛髪が生えてくるので、薄毛や「はげ」はできません。
ヘアサイクルの不調を細胞に関与することで元に戻す
AGAは、ヘアサイクルがうまくいっていない状態です。
今ある毛髪の細胞分裂が通常より早く終了し、しかも、新しく生えてくるはずの毛髪の細胞分裂が遅々として進まなければ、脱毛してもしばら新しい毛髪は見えてこないので、頭髪全体として薄毛状態になってしまいます。
毛髪の再生医療は、今ある毛髪の細胞と、これから生えてくる毛髪の細胞に関与して、AGAを治療していきます。
大学と資生堂が開発した「S-DSC」で毛髪が成長
毛髪の再生医療研究がどのように進んでいるのかみていきましょう。
東邦大学医療センター大橋病院と東京医科大学皮膚科学分野と株式会社資生堂は2020年3月に、毛髪の再生医療によって、AGAを含む男女の壮年性脱毛症の新たな治療法を開発したと発表しました(*1)。
*1:https://www.toho-u.ac.jp/press/2019_index/20200306-1066.html
患者さんの皮膚組織を採取してS-DSCをつくる
研究チームは、壮年性脱毛症の患者さんの後頭部から直径数mmの皮膚組織を採取して、そこから「毛球部毛根鞘細胞加工物」(以下、S-DSC)という物質をつくりました。
毛球部とは、毛髪の下端の球状に膨らんだ部分で、神経や血管が集まっています。毛髪の発生と成長に深く関わる重要な部位です。
毛根鞘(もうこんしょう)とは、毛根を取り囲んでいる組織で、毛髪と頭皮をくっつける役割を持っています。
S-DSCを頭皮に直接投与
そしてS-DSCを、男性50人、女性15人の壮年性脱毛症の患者さんの脱毛部分に注射器で投与したところ、総毛髪密度も積算毛髪径も増加しました。つまり、髪の毛が増えて強くなったのです。要するに、毛髪の細胞が回復したわけです。
皮膚組織を使って毛髪細胞を回復させたので、これは再生医療といえます。
すでにクリニックが提供している毛髪再生医療
大学と資生堂が開発した「S-DSC」はまだ開発段階のものですが、AGA治療を専門にするクリニックのなかには、別の再生医療を導入しているところもあります。
どのような治療を行うのか解説します。
毛包幹細胞を活性化させる
東京都港区のAクリニックでは、脂肪からつくった幹細胞をAGAに悩む患者さんの頭皮に投与して、毛包幹細胞を活性化させる再生医療を提供しています(*2)。
毛包とは、毛髪を取り囲んでいる組織層です。その毛包には「バルジ領域」と呼ばれる部分があり、そこに毛髪をつくる毛包幹細胞があります。
毛包幹細胞が細胞分裂を繰り返すことで、毛髪は長く太くなります。そして毛包幹細胞が異常をきたすと、ヘアサイクルが乱れてAGAを引き起こします。
脂肪からつくった幹細胞は、毛包幹細胞を活性化させる(元気にさせる)効果があるので、幹細胞を注射器で直接頭皮に投与すれば、ヘアサイクルが正常に戻るというわけです。
患者さんの耳の裏の皮膚を採取
この再生医療に使う幹細胞は、患者さんの耳の裏の皮膚の脂肪から使います。そのため、局所麻酔をして、直径5mm程の細胞を採取することになります。
患者さんの耳の裏の一部を切り取ることになるので、採取後は手術用の糸で傷を縫うことになります。
幹細胞を増やして頭皮に注射で投与
採取した耳の裏の脂肪(細胞)は、Aクリニックが培養します。培養とは増やすという意味です。
4週間ほどかけて幹細胞を培養できたら、それを注射器に入れて、患者さんの頭皮に投与して治療は終わります。
患者さんの組織を採取して、そこから「よい物質」を増やし、それを患者さんに戻すという点では、Aクリニックの再生医療と資生堂などの再生医療は同じです。
まとめ~これまでとはまったく異なるアプローチ
再生医療によるAGA治療は、従来の治療法とはまったく異なるアプローチです。
従来の治療法は、血流をよくして毛髪に栄養と酸素をたくさん送ったり、脱毛を促す因子を叩いたりするものでした。
しかし再生医療は、異常をきたしている細胞を正常な細胞に置き換えようとします。
毛髪の元になり、そもそも人の元でもある細胞に直接働きかける再生医療には夢があります。