ジヒドロテストステロンはどのようにAGAを引き起こすのか
AGA(男性型脱毛症)に悩んでいる人なら、フィナステリドやプロペシアといった言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
プロペシアは、フィナステリドを有効成分とするAGA治療薬の名前です。
AGAをさらに深く理解したい人は「ジヒドロテストステロン」(以下、DHT)に関する知識も獲得しておきましょう。
DHTの作用を知れば、なぜフィナステリドがAGA治療に使われるのかがわかるからです。
DHTは、AGAを引き起こす男性ホルモンです。
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目次
ジヒドロテストステロンはホルモン
DHTは、ホルモンであり、男性ホルモンです。まずはホルモンと男性ホルモンについて解説します。
そもそもホルモンとは
血液について知っている人は多くいるのに、ホルモンについて正確に知っている人は意外に少ないようです。それは、ホルモンの作用がとても複雑で、その役割がとても微妙だからでしょう。
人の体内のホルモンは100種類以上あるとされ、もしかしたらまだ発見されていないホルモンがあるかもしれません(*1)。ホルモン研究の専門家たちでつくる一般社団法人日本内分泌学会ですら、まだすべてのホルモンを解明できていません。
そしてホルモンの役割は「体のいろいろな機能の調整を行う」というものです。一般の人には「機能の調整」という役割がイメージしにくいと思います。
例えば、血液は酸素と栄養を細胞に運ぶ役割があります。心臓は、血液を体中に送り出すポンプの役割があります。胃は、食べたものを消化する役割があります。
そのような明確な役割に比べると、調整という仕事はどこか不明瞭です。しかも、調整の仕方や、何を調整するかは、ホルモンによって異なります。
こうした性格が、ホルモンの理解を難しくしています。
*1:https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=3
そもそも男性ホルモンとは
すべてのホルモンについて、この記事で解説することはできないので、ここでは男性ホルモンに焦点を当ててみます。
男性ホルモンは、DHTを含む複数のホルモンの総称です。
男性ホルモンには、胎児から生後6カ月までの成長、思春期の男性器の発達、骨と筋肉の成長、性欲の高まり、脳や精神への影響などに関与します(*2)。
女性にも男性ホルモンがありますが、その量は男性より少量です。例えばDHTは、男性の量は平均0.2~1.0ng/mLですが、女性の量は0.05~0.3 ng/mLと3分の1程度しかありません。
それでは次に、DHTとAGAの関係をみていきます。
*2:https://www.daito-p.co.jp/reference/testosterone_action.htm
ジヒドロテストステロンがAGAを引き起こすまで
DHT(ジヒドロテストステロン)がAGAを引き起こすメカニズムを解説します。
ステップ1:テストステロン
AGAのスタートは、テストステロンという男性ホルモンです。テストステロンは、男性は平均1.92~8.84 ng/mLほど保有していますが、女性は0.12~0.44 ng/mLと少量です。
男性の場合、テストステロンは睾丸でつくられ、血液に乗って全身に運ばれます。
テストステロンは、筋肉を増やす、体毛を増やす、性欲を高める、皮脂をつくるといった現象に関わります。
ただ、テストステロンが直接的にAGAに関わるわけではありません。
ステップ2:5αリダクターゼ
テストステロンは、体内にある酵素、5αリダクターゼと結合して、DHTに変化します。
DHTの正体が「テストステロン+5αリダクターゼ」であることはとても重要です。
DHTが発生しなければAGAにならないのですが、DHTが直接的に髪の毛を抜くわけではありません。
ステップ3:TGF-βとFGF-5と「脱毛の指示」
DHTは、髪の毛の根元の毛乳頭という部分にある男性ホルモンレセプターという物質と結合して、TGF-βという物質を増やします。
TGF-βは、FGF-5という物質に「脱毛」の指示を出します。
AGAは、この指示によって起きる現象なのです。
流れのまとめ
ここまでの流れをおさらいしておきます。
●テストステロンと5αリダクターゼが結合する
↓
●DHTになる
↓
●DHTが男性ホルモンレセプターと結合する
↓
●TGF-βが増える
↓
●TGF-βがFGF-5に「脱毛」を指示する
↓
●AGAが発症、脱毛が進む
髪の毛は頭皮に出てから2~6年かけて成長しますが、TGF-βがFGF-5に「脱毛」を指示すると、その期間が短くなります。
髪の毛の成長期間が短くなると、髪の毛は細く短いまま抜けてしまいます。
また、短期間で抜けてしまうので、次の生えるはずの髪の毛が誕生していないこともあります。抜けた毛の毛穴から新しい毛が生えてこなければ、それは「はげた」状態になってしまいます。
以上が、ジヒドロテストステロンとAGAの関係になります。
AGA治療の原理
DHTが原因となってAGAが発症するのであれば、DHTの発生を抑制すればAGAが発症しないか、少なくとも進行を食い止めることができそうです。
フィナステリド(プロペシア)の働き
DHTに着目したAGA治療薬がプロペシアです。
プロペシアの有効成分であるフィナステリドは、5αリダクターゼの働きを弱める力があります。
テストステロンと5αリダクターゼが結合してDHTがつくられるので、5αリダクターゼの力が弱まればテストステロンとの結合が減り、DHTの数が減ります。
DHTがなくなればAGAに進みません。
プロペシアは「5α還元酵素阻害薬」と呼ばれることがありますが、これは5αリダクターゼ(5α還元酵素のこと)の活動を阻害する、という意味です。
デュタステリド(ザガーロ)の働き
AGA治療の効果を持つ成分には、フィナステリド以外に、デュタステリドがあります。
ザガーロというAGA治療薬の有効成分は、このデュタステリドです。
DHTを生み出す5αリダクターゼには1型と2型があり、デュタステリドは1型にも2型にも作用します。
一方、フィナステリド(プロペシア)は、2型にしか作用しません。
2型の5αリダクターゼは、前頭部や頭頂部に存在し、ひげや体毛が濃い人が多く持つとされています。AGAの典型は、前頭部や頭頂部の薄毛なので、AGA研究では2型を標的にしていました。
それで2型に作用するフィナステリドの研究が先行したわけですが、フィナステリドの効果が得られないAGA患者さんも少なからず存在しました。
そこで1型の5αリダクターゼについても調べられるようになりました。
1型は、側頭部や後頭部、そして全身の毛の細胞(毛乳頭細胞)に存在します。さらに、皮膚の脂分である皮脂が多い人が1型を多く持っていることもわかりました。
AGA患者さんには、まれに、側頭部や後頭部の髪の毛が薄くなる人がいます。それは1型の影響と考えられます。
AGAをしっかり治すには、2型だけでなく1型の5αリダクターゼの活動も抑制しなければならないとなり、デュタステリドを配合したザガーロが開発されました。
まとめ~メカニズムがわかると治療が見える
DHT(ジヒドロテストステロン)がAGAを引き起こすメカニズムは複雑ですが、AGAに悩んでいる人や、将来AGAになるのではないかと不安を抱えている人には、大切な知識だと思います。
AGAを発症したり、AGAが不安になったりしたら、AGA治療を専門にしているクリニックに行ってプロペシアやザガーロを処方してもらえばよいのですが、それだけでは「治療に参加している」という気持ちが希薄なままです。
AGAは病気であり、薬を飲むことは治療なので、やはり患者さん自身が積極的に治療に参加したほうがよいでしょう。治療方法が見えてくると、治療に取り組む意欲が湧いてくるはずです。